Apple iPad:いわゆるひとつの、巨大な iPod touch !?
〜それとも、The Knowledge Navigator のゾンビなのか?

 

2010年01月30日

 
いわゆるひとつの、巨大な iPod touch !?

〜それとも、The Knowledge Navigator のゾンビなのか?

アップルのサイトでは、全面 iPad 一色にレイアウト変更までして、大変な力の入れようである。

製品発表時、初見で感じた疑問というか違和感のようなものは、その後アップルのサイトで詳細なスペックを確認しても、その印象は大きく変わらない。

残念ながら、キラーアプリとしてのマックペイント復活という予想(願望)はみごとに裏切られたが、iWork for iPad ファミリーの今後の展開に期待したい。

カメラ非搭載を残念がる声が多いようだが、あんな大きな板を構えての撮影は衆目の前では相当度胸が必要だろうし、かなり滑稽な姿に違いない。ただ、通信端末としての機能を考えると、Wi-Fi + 3G まで搭載したモデルがありながら、標準で iChat のようなアプリが全くないもの不可解である。

もちろん、まだ実機を拝んだ訳では無いのであくまでも想像にすぎないが、iPhone のように頻繁に持ち出して使用するとういう状況は想定されていないのだろう。

しかし、肯定的な要素を見出せたことも事実である。


発表後、実機に触れることができた羨ましい連中のレポートによると、処理速度は思いの外速く、かなりサクサク動作するらしい。

自社のエンジニアが特別に設計したという ”A4” チップのおかげか、 紹介ムービーで見る限りは、 負荷のかかりそうな相当マンガチックな動きをしているにもかかわらず、である。

この点も実機を確認して見ないと断定は出来ないが、とりあえず得られる情報のみを頼りに検証してみる。

まずは、画面サイズと画角および解像度について。

ワイド画面がトレンドの昨今、あえて4:3という時代に逆行するようなアスペクト比を採用した背景には、フルサイズに近いソフトキーボードとの兼ね合いがあったのだろうと想像する。

iPhone で文章を入力している時に、常々感じていたのが画面の狭さである。iPhone のサイズからどだい無理な要求であることは承知しているが、キーボードが表示された場合それ以外のエリアが物理的なサイズ以上に狭く感じるのだ。

それはたぶん、領域の縦横比に原因があるのではないかと思う。

縦位置はまだしも、キーの打ち易さを優先して横位置で入力する場合は特にその印象が顕著だ。入力行もふくめて4行程度では、前後の関係も確認しずらい。(80年代後半の、EPSON Word Bank note の苦痛と言えば判ってもらえる…、わけねえか?)

横幅がもう1センチ増えてもいいから、より広い表示領域が欲しいと感じたことが多々あるが、その点において、4:3というアスペクト比は歓迎されるべきものである。

いっそ正方形にすれば、縦横を気にすることなく使えるのだが、せっかくのギミックとしてモーションセンサーの出番がなくなるのも寂しいかもしれない。

問題は、ソフトキーボードを従来のように両指ではなく、両手で打った時の感触であろう。

キーボード付きのドックなどもアクセサリとしては用意されているようだが、モバイルという観点からはいかがなものかという気もする。

毎度引き合いに出している、かつてのパームには早くから折り畳みキーボードというのが存在した。もちろん、今後サードパーティからありとあらゆるアクセサリ類が発売されるものと思うが、本体の携帯性を極力損なわない形状が望ましいのではあるまいか。

幸い Bluetooth 接続の Apple Wireless Keyboard が、そのまま使用できるらしいので、スタンドとしてのドックのみで当面は実用になるものと思われる。

[Palm Computing ポータブルキーボード]

また、解像度の点においても微妙なスペックである。

1024×768(132ppi)という数値だけに着目すれば、いまさらという気もする。

しかし、発表前の妄想でシミュレーションしたのは、いずれも高解像度+ワイド画面を想定していたのだが、表示面積を優先するあまり見やすさという視点が欠けていたかもしれない。

Macintosh デビュー当時には、72dpi のビットマップディスプレイに対して、144dpi のイメージライタという組み合わせで使用していたのだが、もしあの頃に今のような 144dpi のディスプレイがあれば、12ポイント=24ドットという、フォントサイズのデノミを敢行して本当の意味での「WYSWYG (what you see is what you get)」ができるなあ、と思ったものだ。

そういう意味では、対角 9.7インチ、1024×768(132ppi)というのは、フォントサイズと物理的な液晶サイズの兼ね合いで、ある意味絶妙の組み合わせではないかという気がする。

iPhone のデモの時には、頻繁に眼鏡を頭の上に上げていたスティーブが、発表会場でソファにリラックスして眼鏡をかけたまま操作する姿を見ても、それを裏付けているように思う。

次に筐体サイズについてであるが、MacBook Air から液晶画面の部分を引きちぎったような感じであるとの記述も見受けることから、ほぼ B5 サイズで 680g という重量はそれほど重いとは感じないだろう。

MacBook Air の立場を危ぶむ声もあるようだが、iPad はむしろ母艦としての MacBook Air の存在価値を高めると思う。(← SSD がもう少し安くなれば)仮に両方持って出てたとしても、合計重量は 2.04kg(1,360g + 680g)で、MacBook(2.13kg)より軽く、なんと MacBook Pro 13 インチモデル(2.04kg)と、ピッタリ同じなんである。(ま、CD とか DVD とかレガシーな問題はあるけどね)

ただ、背面の形状から裸で使用するのは、落ち着かないような気がする。(コロンコロンしないのかな?)

無粋なゴム足を貼り付けるのも気が引けるので、同時に発表された純正ケース(カバー?)のようなものが必修になるだろう。

こちらの方もいずれ、各社競って専用ケースが山のように出てくるに違いない。

ミュージックデバイスとして見た場合、ひとつ残念なのは内蔵スピーカがモノラルという点だろう。今後の製品展開で、ぜひワイヤレスでサウンドを飛ばせる “iPad Hi-Fi” の登場に期待したい。

いまのところ、Apple TV との連携はまったく語られていないが、いったいどうするつもりだろう?


ハードウェアとしての出来はかなり良いと思われるが、販売面に関しては不安材料もある。

新聞などでは「電子書籍市場に本格参入」などと紹介されているが、本国以外では書籍ストア「iBooks」に対する記述はない。それどころか、もう何年も前に発表された映画、ドラマの配信やレンタルなども国内では全く案内がない状況である。

このように、各国でそれぞれ利用できる環境が異なるにもかかわらず、本国のみのサービスもごちゃ混ぜにワールドワイド的なニュースとしておいしいところばかりを紹介されても、そう簡単には歓迎できる製品でもあるまい、と思ってしまうのだ。

そして、もうひとつの不安材料は、逆に大量に売れた場合だ。

メディアの各サイトでは、iPhone や iPod touch で作り上げてきた App Store などのエコシステムが、そのまま継承されることを称賛するアナリストの声が紹介されているが、これもおかしな話だ。

そんなことは、iPhone OS を採用するらしいことがわかった時点で明白だったろうし、仮に Mac OS を採用していたとしても、なんらかのエミュレータの可能性はあったはずだ。

どんなバカが考えても、継承しないプラットフォームが発表される可能性はゼロ以下だし、もともと継承どころかそれを発展させるために開発されたのが「iPad」であるはずだ。

たぶん、アップルからご贔屓アナリストには、「そこんところを強調しといてね」という依頼でもあったんだろう。

「iPad の使用方法は、すでに多くのユーザが知っている」と、製品発表の場でスティーブ本人が語っているように、すべてはアップルが運営または関係するストアから商品を購入させるための手段の一つなのだ。

一般的なパソコンの購入形体では、本体をお買い上げいただいたユーザが、その後追加購入する大半のモノはユーザの勝手で行われてきた。アップルとしては、Mac に限らずこのようなパソコンのビジネスモデルでは、本体購入後にユーザが使うカネの流れをコントロールできない。

iPhone や iPod において、その後の売買に関与するうま味を覚えて、これを拡張するよい手だてはないものかと考えたに違いない。そこで、インパクトのある商品開発に着手した結果が「iPad」という製品ではあるまいか。携帯電話やプリンタとインクの関係などのように、長期間に渡ってあらゆる取引に関与するための布石として、具現化された機器のような気がしてならない。

パソコンであれば、ユーザは商品や購入先を自由に選択することができるが、購入にともなうさまざまなトラブルも、リスクとして付いていてまわる。

もちろん、iPad にもフルブラウザの Safari があるのだから、ユーザがその気になればパソコンと同様に商品や購入先を選択することは可能だ。しかし、一般的なユーザにとっての最大のメリットは、誰でも(たぶん)使える分かりやすいユーザインターフェイスと安心感だろう。

アップルストアだってトラブルがないわけぢゃないけど、手続きが一本化できる程度のメリットはあるので、それ自体個人的には悪いことばかりではないと思っているが…。

おそらく、iPad がそれなりに販売量を見込めるようになる頃には、各買い物サイトに特化された無料の専用アプリが大挙して発表されるに違いない。そうなれば、ひとつの流通革命になりえるものだが、それによってアップルの開発リソースが、今以上に Macintosh からはなれてしまうことが懸念される。

そうでなくても、現状の Mac および Mac OS 環境は、開発速度は鈍くなおかつレスポンスが悪くなっているように思う。別にもっと新しく、より多くの機能追加を望んでいるわけではない。必要な機能も、使いやすさのレベルも一定以上に達しているとは思うが、いまひとつのキレがないのである。

言うなれば、切れ味の鈍った十徳ナイフみたいなもので、ツールをこれ以上増やすより七徳ぐらいでいいから、もう少し使いやすく切れ味の良いパーツと交換して欲しい、といった感じかな。

製品発表前にタブレット型コンピュータとして期待していたユーザの大半は、たぶん「iPad」のメインターゲットではない。

会場では、iPhone と MacBook の中間に位置するモバイルデバイスなどと説明していたようだが、あんなものは既存のユーザに対する配慮であり、ウソッパチに決まっている。アップルはあえて明言しないだろうが、メインターゲットは、潜在的な顧客層である一般家庭だろう。もっとハッキリいえば、iMac を買い控えた、または買いそびれた連中だ。

すなわち、モバイルデバイスなどではなく、一般家庭のデスクトップ機に替わるものだ。通信機能はあっても通話機能がない、カメラがついていないなどというのは、その証だろう。そのために、一般的なパソコンにあるメディアリーダや USB などといったインターフェイスを排除したのだろう。誰にでもわかりやすくシンプルにしておいたから、必要な人だけ後から付けてね、と。

本来ならオマケでつけてもいいはずの、iWork for iPad ファミリーを別売りにしただけでなく、「おひとつ $9.99 より」のバラ売りをしてまで低価格にこだわったところなどは、利益を後から回収するフリーミアムの考え方に近い。

ありがちなコマーシャルに登場する、大画面の iMac を家族で仲良く共有するなどというのは、絵空事に過ぎない。 それより価格を下げて、一家に一台ではなく各個人に一台という方が、近年の家庭環境にはよっぽどシックリ来ると思うし、より現実的だろう。


[iWork for iPad at $9.99 each]

最近ではどんな家庭にもパソコンぐらいはあるだろうが、ウィルス対策やそれにともなう設定が面倒であるとか、家族の誰かが管理者としての役割をこなさない限り、まともに使えていないご家庭が多いという話も聞く。

必要以上の自由度と引き換えに、またもや「The Rest of Us」になってしまった人々に対する、アップルからのひとつの回答が「iPad」であろう。それゆえ、iPad は現状のどんなパソコンの延長線上にも位置しない、もっぺん真珠湾からのやり直しなのである。

iPhone には Newton を、iPad には The Knowledge Navigator(ナレッジ・ナビゲータ)をデジャヴ(既視感)として感じるのだ。


[The Knowledge Navigator]

ここらあたりを誤解していたために、なんとなく違和感というか、よくわからん機器だなあ、という印象につながったのかもしれない。

こいつが売れたら、必ずやアップルは Mac も Windows も、全くパソコンとの連携が必要ない、もっとデカイ第二の「iPad」を出してくるに違いない。

それまでには、超えなければならないハードルが山のようにあるだろうが、 それこそが、もうひとつの独立したジャンルの製品として本当の「iPad」の完成形だ。(…なんちゃって)

ま、現時点で iPad に期待するのは、最もウリの部分であるシンプルな使いやすさが Mac OS にもフィードバックされて、全てのアップルファミリーでシームレスな環境が実現してくれるとありがたい、というところかな。

……ということで、ヒトツよろしく。


2010年01月某日 Hexagon/Okayama, Japan